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分厚いハードカバーの角をとん、と揃えて、本城さつきは顔を上げた。
「はい、二冊返却ですね。ありがとうございました」
カウンターを挟んで立っていた女子生徒は、口をもごもごと動かして小さく頭を下げた。ほとんど聞き取れなかったが、ありがとうございました、と言ったのだろう。返却カウンターではよくある光景の一つだった。もう少しはっきり言えばいいのにねぇ、と司書教諭はよく嘆いているが、気持ちは分かる、とさつきは思う。図書館という場所はとかく、声を発することをためらわせるのだ。
女子生徒が去って返却手続きの波が途切れると、さつきは軽く伸びをして身体をほぐした。カウンターの業務は嫌いではないが、座りっぱなしでいるとお尻が痛くなってしまう。お手洗いに行っているもう一人の当番が戻ってきたら、書架の整理に行かせてもらうことにしよう。
私立青柳学院高校の図書館と言えば、県内ではそれなりに有名らしい。
高校の図書館としては規模が大きく、蔵書も多く、館内のデザインも優れているというのがその理由だ。実際、この図書館に惹かれて進学先を決定した生徒も少なからずいるという。入学してまだ一か月も経っていないさつきから見ても、充実した図書館であるのは分かる。
クラスで委員会を決める時も、妙に図書委員に立候補する生徒が多かった。なんとなく手を挙げ、たまたまじゃんけんで勝ち抜いてしまった身としては申し訳なさも感じるが、そこまで評判とは知らなかったのだから仕方がない。
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