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「何の本読んでたの?」
「うん? 何だったっけ、忘れた」
「えー?! そんな勿体ない」
「そう言われてもさー。ほんと適当に選んじまったし、最初の十ページくらいしか読めなかったんだって」
本のタイトルさえも睡魔に攫われてしまったらしい。
呆れたさつきに、晴也は「でもさ」と続けた。
「うたた寝して、良いこともあったよ」
「良いこと?」
「実は、夢に出てきたんだ。シュウが」
さらりと言われ、思わず足が止まった。
晴也の表情は変わらない。むしろ、どこかすっきりしているように見えた。
「あいつが亡くなってから、夢に出てきたのって初めてかも」
「そうなんだ……どんな夢?」
問いかけに、晴也は視線を彷徨わせた。
なぜか頬を掻きながら、言いよどむ。
「えーと……」
「うん」
「その…………覚えてない」
嘘だ。
咄嗟にさつきは思ったが、口には出さなかった。
様子を見る限り、悪い夢ではなかったのだろう。なら、いい。その代わり。
「ねえ」
「ん?」
「図書館、これからも来る?」
見上げた先で、少年が歯を見せて笑う。
「ん。行くよ」
――また、火曜日に。
了
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