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 移動式の棚に本を乗せて、書架の間を通り抜ける。空いた隙間に、ぴたりと本を埋めて行く。  地味な動作の繰り返しだが、この作業がさつきは好きだった。読書好きと豪語できるほどではなくても、図書委員に手を挙げるくらいには本好きだ。整然と並べられた空間はやはり落ち着く。  気になるタイトルをつい手に取ってしまい、作業が中断することもよくあるが、多少遅れたからと言って誰に怒られるわけでもない。時には席に座って読みふけってしまうこともある。試験期間になるとかなり人が多くなるらしいが、まだ中間テストまで一か月ほどあるせいか、席についている生徒の数はまばらだった。  全体をぐるりと見渡して、さつきの視線がある一点に留まった。  窓際に設置されている横並びの席の、一番奥に、一人の男子生徒が座っている。  たしか、先週もその前も、彼は同じ場所にいた。  覚えていたのは、少々この空間にそぐわない風貌のせいだった。背が高く、程良く日に焼けた顔。エナメル生地の大きな鞄に、黒いスニーカー。制服がやけに綺麗なところを見ると同じ一年生だろうが、おそらく運動部だろう。  机の上には教科書もノートもなく、自習をしている様子はない。かと言って本を読んでいるわけでもない。最初は音楽でも聴いているのかと思ったが、ヘッドホンやイヤホンを付けているようにも見えなかった。他の生徒たちのように、スマホをいじったりもしていない。  ただ、ぼんやりと窓の外を眺めて、閉館までそこに座っている。  毎日来ているのかどうかは知らないが、少なくともさつきが当番の火曜日には、毎回同じ席についている。どうにも不思議な存在だった。単に時間を潰しているにしては、呆然とし過ぎている。図書館はお金こそかからないが、退屈な人にとってはこの上なくつまらない場所だろうに。  ――どうしていつも、あそこにいるんだろう。  頭をよぎった疑問に、さつきは肩を竦めた。気にはなるが、本人に直接確認するつもりは毛頭ない。  騒いでいるならともかく、彼はぼうっと座っているだけで、誰にも迷惑はかけていないのだ。カウンターで読書に励んでいるもう一人の図書委員などは、そもそも気付いてさえいないだろう。閉館になれば自分で席を立って出て行くので、声をかける必要もなかった。  彫像のように動かない少年から視線を外し、さつきは作業に戻った。片づけるべき本は、まだ半分以上残っている。
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