22人が本棚に入れています
本棚に追加
椅子の背を持って、位置を直す。
と、何かがころりと床に落ちた。
拾い上げてみると、鍵だった。多分、自転車の鍵だろう。S、という青いプラスチックのキーホルダーが付いている。
――あの人の、忘れ物?
もちろん、この席を使うのは彼だけではないが。ついさっきまで座っていたのだ。可能性としてはかなり高い。制服の後ろポケットにでも入れていて、落としてしまったのだろうか。
どうしよう。もし彼のものだとしたら、今すぐ追いかければ間に合うかもしれないが……
しばらく考えたのち、さつきは結局カウンターに戻り、落し物を入れておく箱を取り出した。
あの男子の持ち物だという確証もないし、とっくに学校を出てしまっているかもしれない。やはり、忘れ物として預かっておくのが無難だ。
箱は目に付くところには置かれていないが、司書や図書委員に声をかければ対応してもらえる。自転車の鍵なら、失くしたことにはすぐ気づくだろう。心当たりがあれば、近いうちにここにも探しにくるはずだ。
とにかく、余計なことはしないのが一番。
「あれ、本城さんまだ残ってくれてたの? お疲れさま、気をつけて帰ってね」
「はーい、お疲れさまです」
事務室から顔を覗かせた司書に挨拶を返し、さつきは箱をカウンターの奥へと押し込む。
中に入れたキーホルダーが何かにぶつかったらしく、かちんと硬質な音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!