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 椅子の背を持って、位置を直す。  と、何かがころりと床に落ちた。  拾い上げてみると、鍵だった。多分、自転車の鍵だろう。S、という青いプラスチックのキーホルダーが付いている。  ――あの人の、忘れ物?  もちろん、この席を使うのは彼だけではないが。ついさっきまで座っていたのだ。可能性としてはかなり高い。制服の後ろポケットにでも入れていて、落としてしまったのだろうか。  どうしよう。もし彼のものだとしたら、今すぐ追いかければ間に合うかもしれないが……  しばらく考えたのち、さつきは結局カウンターに戻り、落し物を入れておく箱を取り出した。  あの男子の持ち物だという確証もないし、とっくに学校を出てしまっているかもしれない。やはり、忘れ物として預かっておくのが無難だ。  箱は目に付くところには置かれていないが、司書や図書委員に声をかければ対応してもらえる。自転車の鍵なら、失くしたことにはすぐ気づくだろう。心当たりがあれば、近いうちにここにも探しにくるはずだ。  とにかく、余計なことはしないのが一番。 「あれ、本城さんまだ残ってくれてたの? お疲れさま、気をつけて帰ってね」 「はーい、お疲れさまです」  事務室から顔を覗かせた司書に挨拶を返し、さつきは箱をカウンターの奥へと押し込む。  中に入れたキーホルダーが何かにぶつかったらしく、かちんと硬質な音を立てた。
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