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――さつきちゃんのせいで。
友達だと思っていた女の子が、泣いている。泣きながら、怒っていた。
困惑、同情、共感。周囲には、様々な表情を浮かべたクラスメイトたち。
――さつきちゃんが、余計なことするから。
ちがうよ、と言いたかった。
ちがう、そうじゃない。私は、そんなつもりじゃ。
でも、言えない。何も言えない。
だって、きっかけを作ってしまったのは、間違いなく。
「すみません、貸出いいですか」
遠慮がちにかけれらた声に、さつきは我に返った。あわててカウンター越しに本を受け取り、貸出手続きを進める。
まさか、目の前に立っている生徒に気づかないとは。物思いにふけっていたと言っても、ぼんやりしすぎだろう。
あれから一週間。
キーホルダーの付いた鍵は、まだ箱に入ったままだ。
男子生徒は今日もふらりと現れて、奥に向かって歩いて行ったが、積極的に何かを探そうとしているようには見えなかった。カウンターに目を向けることもない。
当然と言えば当然だ。彼が何故図書館に来るのかは分からないが、少なくとも本を借りるのが目的ではないだろう。最奥の席に座っているだけの彼が、カウンターの中に置かれた箱に気づく余地などほぼ皆無と言っていい。
――誰かが、その存在を教えてあげない限りは。
さつきは軽く頭を振った。無理だ。できるはずがない。そもそも、彼のものかどうかも分からないのに。
箱の蓋を持ち上げたまま、さつきは小さくため息を落とした。
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