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「あら、また増えてきたわねえ、落し物」
「……先生」
落し物入れを覗き込んだ司書が、腰に手を当てて嘆く。さつきは思い切って切り出した。
「あの、これ、もう少し分かりやすい場所に置いた方がいいんじゃ」
「うーん、そうなんだけどね」
中年の女性教諭は苦笑を浮かべる。
「前はそうしてたのよ。出入り口の近くに置いてたの」
「え、そうだったんですか」
「でも、何年か前に、生徒の間で盗難騒ぎが起こっちゃってね。だから今はカウンターの中に置いてるのよ」
盗難、という言葉が重く響いた。学校内の、これほど雰囲気の良い図書館でも、そんなことが起こるのか。
だが、一学年に十クラスもある大きな高校だ。高校生の万引きだってあるのだから、落し物入れからこっそり他人の物を取っていく人間がいてもおかしくない。
「スマホとか財布みたいな貴重品は、さすがにすぐ取りに来る子が多いけどね。落し物や忘れ物はカウンターへ、って張り紙もしてるし。でも、こういう細々したものはねえ……」
細身のシャープペンシルを手に取って、司書は眉尻を下げる。失くしても数百円で新しいものが買えるであろう、ごく普通の文房具だ。
「本人もどこで失くしたか分かってなかったりするし、そんなに未練もないんでしょうね。結局取りに来ないことも多いのよ」
「取りに来なかったら、どうするんですか?」
「一年間引き取り手がいなかったら、処分するわよ。張り紙にもそう書いてるしね」
他人の物を処分するのって気が引けるんだけど、と言う司書に、さつきは頷いた。いくら安価なものであっても、後から何か言われたらと思うと気の進まない行為だ。
だからと言っていつまでも預かっているわけにはいかない。箱がいくつあっても足りないだろう。
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