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今回だって、同じだ。自転車の鍵なのだから、失くしたら早めに探しに来るだろうと勝手に思っていたが。彼にとっては、そこまで目の色を変えて探すものではないのかもしれない。他人でしかないさつきが気に病むことなどないのだろう、本当は。
しかし、司書はやわらかく笑って続けた。
「だから、もし、持ち主に心当たりがあるなら届けてあげてね」
「えっ……」
「その方が、お互い助かるし、気持ちいいでしょ?」
人の好い笑顔が、さつきに向けられる。
親切にすることは善行だ、と。少しも疑っていない表情に、さつきは小さな声で「……はい」と答えるしかなかった。
そこに、書架の整理に行っていた相方の先輩が戻ってくる。
「あのう、先生、すみません。ちょっとうるさい人たちがいて……多分、スマホでゲームやってると思うんですけど」
「また? 最近多いわねえ」
言われてみれば、今日は館内が少々ざわついている。笑い声のようなものも聞こえてくる。
別にスマホ禁止の高校ではないので、多少のことは目をつむっているが。他人の迷惑になるほど騒ぐのはやはりマナー違反だ。
「ちょっと見てくるわね。どのあたり?」
「あ、一階の奥の方です。ここからは見にくいんですけど……」
いくら図書委員でも、同じ生徒の立場で注意するのは気が引けたのだろう。先輩はあからさまにほっとした顔をしている。
さつきは箱の蓋を閉めて、カウンター業務を交代するために立ち上がった。
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