【第二章】 コードD デルタ

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暫くして船の汽笛の音が耳に届き、我に返った由美は小さな声で呟く。 「デルタさん、ずるいですよ」 「ずるい?」 「こんな景色みせられて、ときめかない女の子なんていないです」 そう言ってあどけなく笑う姿が、水面から反射する光を纏い輝いて見える。デルタは赤くなった顔を隠す様に、慌てて視線を逸らした。 「喜んでくれたのなら嬉しいよ。なあ、あの船を見てくれ。あれは俺の会社で作った船なんだ」 デルタの指差す先には、先ほど汽笛を鳴らした船が浮かんでいる。 「あんなに大きな船を? 凄いです。私、デルタさんの事がもっと知りたくなっちゃいました。これからも一緒に遊んでくれますか?」 「いいぜ。だけど、一つだけ頼みを聞いてくれ。よそよそしいのは嫌いなんだよ。だから、敬語は無しだ。勿論、さん付けもいらない」 「分かりました……じゃなくて、分かった。宜しくね、デルタ」 「宜しくな、由美」 優しく頭を撫でられ、今度は由美が頬を赤く染めた。夕焼け色に染まっている状況で、そんな些細な変化に気づくはずが無い。でも、気づかれないと分かっていても、恥ずかしさで俯いてしまう。 デルタは時間を確認して、由美の手を引き「そろそろ電車が来る時間だから行くぞ」と歩き出した。繋がれた手から温かさが伝わり、鼓動の高鳴りを抑えようとしても止められない。 「どうしたんだよ、急に暗くなって」 「……何でも無い。気にしないで」 「そうか。じゃあ、次はどこへ行きたい? 仕事が休みの日だったら好きなところへ連れて行ってやるよ」 「どこでもいいの? だったら、遊園地に行きたい。あっ、夏祭りもいいな」 「分かった。来週末が夏祭りだったよな? 有給使って予定を空けておくよ」 「ありがとう。楽しみにしてるね」 こうして、二人の距離は急速に近づいて行った。 そして、約束していた日の朝に遊園地で待ち合わせをする。そこには何故か、エコーと里香の姿もあった。
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