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「突然呼び出してすまなかった」
「気にしなくていいぜ。今日は仕事が休みだから暇してたんだ。チャーリーの方こそ、大学はどうした?」
「単位は取ってるから問題無い」
渋谷の人混みの中を、成長したチャーリーとデルタは歩いていた。
「結局、あれから飛緑魔は現れなかったよな。絶対に逃がさないとか言って無かったか?」
「あいつらの行動を常識に当て嵌めるな。本来は自由気ままに生きる化物だ。今頃は僕たちの事なんか忘れて、遊び呆けているかも知れない。だからこそ、そこに付け入る隙がある」
「なるほどね。ところで、わざわざ渋谷まで何を買いに来たんだ?」
「誰が買い物に誘った?」
「違うのか。珍しいと思ったんだよ、チャーリーが俺に声を掛けるなんて。じゃあ、目的は?」
「目的なんて、一つしか無い」
的を射ない会話に苛立ちを覚え、デルタは立ち止まって辺りを見渡す。
スクランブル交差点は、目眩がするほどの人で溢れていた。
「まさか、飛緑魔を探すなんて言わないよな?」
「今のところ『SIX』を使えるのはデルタだけだろ」
「マジかよ。仮に飛緑魔がいたとしても、人が多過ぎて見つけられないぜ」
「忘れたのか? 僕たちは飛緑魔を見分けられる。それに、意味も無く渋谷へ来たわけじゃない。これを見てくれ」
チャーリーはポケットからメモ用紙を取り出す。そこには、見覚えの無い名前が連なっていた。
「何だ、これは?」
「ブラボーが調べてくれた、行方不明者のリストの一部だ。ここに名前を上げた人物は三つの共通点がある。一つ目は、全員男。二つ目は、一ヵ月以内に渋谷周辺で行方不明になっている。三つ目は、衣類や装飾品だけが見つかった……」
デルタの背中に冷たいものが走る。
「飛緑魔の仕業だと言いたいのか? やめてくれ、俺は変なところで引きが強いんだよ。それに、こんなところで見つけても戦えな……ちょっと待て。チャーリー、お前……その目……」
「本当に、デルタは引きが強いらしいね」
二人の瞳が怪しく光り、スクランブル交差点の中心へと吸い寄せられていった。その先には、平凡な中年サラリーマンと腕を組む、色気のある女性の後ろ姿。
雑音が飛び交う中で、サラリーマンと女の会話だけが鮮明に聞こえる。
「美咲ちゃん、早く楽しい事しよう」
「もう、おじさまったら。焦りすぎよ。楽しいことは二人っきりになってからね。それと……ごめんなさい。ちょっと用事ができちゃった」
「おいおい、今さらそれは無いだろ。いくら貢いだと思っているんだ」
「大丈夫よ。すぐに……終わるから……」
女の首だけが振り返り、互いの視線が交錯した。
「行くぞ、デルタ」
「勘弁してくれよ」
不気味な笑みが鼓動と思考を加速させていく。
時を経て重なり合う、逃れられない運命が幕を開けた。
【Next stage コードF フォックス】
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