【第一章】 コードF フォックス

2/22
380人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
スクランブル交差点の中心に立つ女は色香を漂わせ、デルタとチャーリーを舐め回すように見つめている。 「行くぞ、デルタ」 「交差点の中で戦うのか? メチャクチャ人がいるぞ」 「飛緑魔は目立つ事を嫌う。騒ぎを起こしたくないから、一般人を盾にする様な真似はしないだろう。だからこそ、この状況はチャンスだ。周囲の人が逃げ道を塞いでくれるし、接近戦ならデルタの『SIX』が使える。一気に距離を詰めて仕留めるぞ。誰も気づかないくらい素早く動け」 チャーリーは最短距離で駆け寄り、デルタは人混みの間を縫って裏手に回った。 飛緑魔を挟む形となって対峙し、雑踏の中に緊張が走る。 背後に立つデルタが合図を送り、二人同時に飛び掛かった。的確に急所を狙い、息つく暇も与えず攻撃を繰り出す。その速さは人の域を越えていて、すぐ横に立つサラリーマンですら何をしているのか分からないほどだった。 それでも、飛緑魔にはかすりもしない。 「ガキの頃に戦った飛緑魔より、遥かに素早い。チャーリー、『SIX』を使うぜ」 「待て、当たらなければ意味が無い。僕が動きを止める」 光の盾で退路を塞ぎ、体を張って止めに掛かる。だが飛緑魔は焦る素振りを見せず、勢いよく距離を詰めてきた。 そして、頬に優しく触れ、吐息の掛かる距離で囁く。 「あなた、私のタイプよ。お酒は飲めるかしら? お店に来てくれたらサービスするわ」 「ふざけるな」 振り払おうとする手をかわし、あざ笑うかのように口角を上げた。 「怒った顔も素敵」 「その強さと余裕……まさか、始まりの……」 「あら、気づいちゃった? あなたは、あの陰陽師の子孫かしら。そうね、よく見ると面影があるわ。フフッ、もう少し遊んであげたいけど時間切れ。また会いに来てね」 信号が赤に変わり、飛緑魔は早足になった人の波に紛れ姿を消す。 「デルタ!」 「ダメだ、どこにも見当たらない。気配も消えちまった」 「しまった、人間レベルまで力を落としたのか」 どの方向へ消えて行ったのか見当がつかず、追跡は不可能だった。 飛緑魔と一緒に居たサラリーマンは置いてきぼりを喰らい、美咲と言う名前を叫びながら駆け出す。誰も気に留める事すら無かった静かで鋭い十数秒の攻防は、後味の悪さだけを残し終わっていた。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!