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「おーい、フォックス。探したぜ」
「デルタ。ここに来るなんて珍しいね。仕事は休みなの?」
「ああ、休みだから巻き込まれたんだよ」
「巻き込まれた?」
デルタは横に座り、事の成り行きを説明する。しかし、フォックスは表情一つ変えず反応を示さなかった。
「驚かないんだな」
「驚いてるよ」
「アルファたちは動き出してるぜ」
「うん、僕も協力する。友達だからね。でも、昔の様には動けない……いや、動こうとは思わないんだ」
歯切れの悪い言葉は、触れないで欲しいと言ってる様に感じる。アルファやチャーリーなら、気を使って深く追求しなかったかも知れない。
だが、純粋で不器用なデルタはストレートに想いをぶつけた。
「何があった? 全部話してみろよ」
「何も無いよ。ただ、大人になっただけ。数年前にお婆ちゃんがいなくなって、僕は一人になった。生活する為のお金は残してくれたけど、父さんと母さんは幼い時に事故で他界してるし、兄弟もいない……」
「そっか、大変なんだよな」
「デルタの方が大変でしょ? 両親が離婚しちゃって、家計を支える為に働いてるじゃないか。弟たちの学費もデルタが面倒見てるって聞いたよ」
「まあ、しょうがないよ。母ちゃんを一人で働かせる訳にはいかないからな。でも、ラッキーだったんだぜ。叔父さんの造船所で働かせて貰えたから、他の社員よりも少しだけ待遇が良いんだ。それに仕事の内容も面白くて、やりがいがある。いつか世界一大きい船を作り出してやろうって野望もあるんだぞ」
デルタはみんなと一緒に大学へ行きたかった。それはフォックスたちも感じ取っていた。でも、そんな思いを表に出さず曇りなく笑う。
その眩しい笑顔につられ、フォックスも自然と笑みを零した。
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