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「ねえ、君はみんなと一緒に遊ばないの?」
「……僕は一人でいいよ」
少年は表情に陰りを見せ、俯きながらブランコに戻った。
ここで、フォックスは違和感の正体に気づく。
小学生の頃のフォックスは、アルファたちと出会うまで友達を作らなかった。
遊園地に連れて行って貰った、プールで遊んだ、映画を見に行った……そんな話をクラスメイトは楽しそうに話す。しかし、心優しいフォックスは、親代わりの祖母に迷惑を掛けたくないと我慢する。次第にみんなと話が合わなくなり、距離を置く様になってしまっていた。
気が付けば、近くの公園に住み着いた野良猫と遊ぶ毎日。
そんな時、違うクラスのアルファに声を掛けられる。
「ねえ、何をしてるの?」
「えっ? あっ、えっと、その……ねっ、猫と話をしてたんだ」
驚いたフォックスは、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしてしまった。
変な奴だと思われた。このままではからかわれてしまう……そう感じて、恥ずかしそうに口を閉ざす。そんなフォックスの手を、アルファは目を輝かせながら握り締めた。
「猫と話しが出来るの!? 凄い! ねえ、この子は何て言ってるのか教えてよ」
信じられなかった。からかわれてると思った。でも、アルファの純粋な瞳がフォックスの暗い心を消し飛ばす。
「この子はね、ミーアって猫なんだ。いつも遊んで欲しいって言うから、追いかけっことか、かくれんぼをしてるんだよ。それとね、ここを撫でると喜んで……」
気が付けば言葉が溢れ出して止まらない。この瞬間から、光の下へ連れ出してくれたアルファはかけがえのない親友となっていた……
……
……
違和感の正体とは、ブランコで俯く少年と重なった自分。アルファが手を差し伸べてくれるまでの、暗闇で震えていた過去。
「一人でいいって、どういう事?」
「道具が無いんだよ。僕はバットもグローブも無いから野球が出来ない。ゲームも持って無いし、それに時間も無いんだ」
「時間?」
「数年前にね、お母さんが病気で死んじゃった。だから、夕飯の支度や洗濯をしてるんだよ。お爺ちゃんやお婆ちゃんもいないし、家族はお父さんと僕だけ。僕が頑張らないとね」
フォックスも幼い頃から祖母と二人だけで暮らしている。だからこそ、少年の言葉が痛いほど心に響いた。
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