【第一章】 コードF フォックス

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「今は梅雨だから雨の日が多いでしょ? お父さん、自転車で会社に行ってるんだけど、いつもボロボロのレインコートを着てるんだ。だから、父の日に新しいレインコートをプレゼントしようと思って……これで足りるかな?」 自分よりも人の気持ちを優先する言葉は、寝ぼけ眼だったフォックスの脳を強く揺さぶった。 「……そっか。海斗はお父さんが大好きなんだね」 「当たり前だよ。お父さんは頑張ってるんだ。営業の外回りをしていて、いつも頭を下げてるから友達にはカッコ悪いって言われるけど、僕には優しいし、最高にカッコいいお父さんだよ。死んじゃったお母さんもね、強がって威張り散らしてる大人より断然カッコいいって言ってた」 「うん、僕も海斗のお父さんはカッコいいと思う。お父さん、レインコートをプレゼントしたら喜ぶよ。お金もこれだけあれば足りる。海斗は今から学校でしょ? 僕も今日は予定があるから、週末だったら買い物に付き合うよ」 「ありがとう。一人で選ぶのは不安だったんだ。じゃあ、週末の朝に来るから忘れないでね」 約束だよと何度も言いながら、嬉しそうに駆けて行く。 しかし、週末になっても海斗は姿を現さなかった。 ※※※
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