番外編 恋のソースコードを俺は知りたい

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番外編 恋のソースコードを俺は知りたい

俺の恋人はめちゃめちゃ可愛い声で鳴く。 「ああんっ、せんぱい、そこ……ふ、ダメ!」 こいつの“ダメ”は基本的に”いい”って意味だ。 その証拠に、言いながら中はビクビクと痙攣し、俺に吸い付いてくる。 普段、会社でのこいつは真面目で控えめで、ちょっと不器用なやつなのに。 ベッドではこの通りだから、本当にもう、隙あらば押し倒したくなる。 というか実際俺は、寮の部屋で2人きりになれば、100パーセントこいつを押し倒している。 この魅力にはどうしたって抗えない。 つまり……端的に言えば、俺はこいつが大好きだ。 「うう、あと3時間……デバッカーさんたちが来る前に、さっきのとこ修正しなきゃ……」 行為の余韻を楽しむ暇もなく、恋人――楠木直哉はさっさとオフィスに戻ろうとしていた。 彼は4月に入社したばかりのSE候補で、チームは違うけれど同じ部署の後輩に当たる。 IT土方って言葉がある通り、システム制作会社なんてものはブラック企業もいいとこで。 入ったばかりの楠木は、いつもヒーヒー言いながら仕事をしていた。 けど、だからってな。 ヤったら即帰るみたいなのは寂しいじゃないか。 「忙しいなあ、お前は。仕事なんか適当でいいのに」 シャツのすそを直す後ろ姿に向かってぼやくと、楠木は困り顔でこちらを振り返った。 「忙しくなんか。僕なんて先輩の半分も仕事してませんから」 「そんなのどっちでもいいからさ。そうだ、今抱えてる仕事こっちに寄越せよ」 そうすればお前のこと、もうちょっと独り占めにできるよな? そんな俺の思惑に気づく様子もなく、楠木はキッパリと言ってくる。 「そういうのはダメです! 僕だってちゃんと仕事できるようになりたい」 「仕事できるように?」 そうなったら、お前は俺に仕事のことを聞きに来なくなるじゃないか。 それは嫌だ。寂しすぎる。 「あの……先輩、なんか怒ってます?」 押し黙る俺を見て、楠木が不安そうに聞いてきた。 聞くまでもないと思うのに。 なんで分かんねーのか、こいつには俺の気持ちが。 「別になんでもねーよ! 忙しいなら早く行け!」 俺は困惑顔の楠木に向かって舌打ちをする。 「行きますよ、ハイ……」 楠木は戸口でもう一度俺を振り返り、それから何も言わずに行ってしまった。 (なんなんだよ、このモヤモヤは!) *
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