May princeへの招待状

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 興味深そうに店内を覗く颯希を従えて、航は外階段から三階の自室へと上がった。 「バースデーケーキ、どうだった? 気に入ってもらえた?」  仕事着で部屋に顔を出した母は、颯希の存在に面食らいつつも、にこやかに笑いかけた。 「中原くん、よね? うちのケーキ、どうだった? お口に合ったかしら?」  うろたえて俯いた颯希より先に、航が答えた。 「それがさ、宏則が一人分を遥かに超える量を食べちゃったんだ。僕と颯希はありつけなくてさ。あいつ、うまいうまいって抱えこんで、本当に食い意地が張ってるよ」 「まあ。そんなに気に入ってもらえたなら安心したわ。あんたたちにもあげるわよ。店用のがあるから」  ほどなく運ばれてきたケーキは、白桃と黄桃をふんだんにあしらった特注品である。二色の桃が純白の生クリームに彩りを添え、初夏にふさわしく後味もすっきりとしていた。  本日、二度目のケーキを食す航は、半分ほど食べ終えた時点で腹をさすった。 「お前、嘘が下手だな。おいしかった、って言えば済んだだろうが」 「僕は嘘をつくのは得意だよ。颯……中原こそ嘘は苦手だろ。母さんに聞かれた時に顔が引きつってたもの」  う、と詰まった颯希にニヤリと笑い返すと、母がケーキとともに持参したアイスティーを流しこむ。 「……なんか、ごめん。……色々」  綺麗にケーキを平らげた颯希は、グラスの琥珀色を見つめながら小さく詫びた。そんな顔をされたら、からかいにくくなる。航は半分残ったケーキの皿を彼に差し出した。 「謝罪よりも、これを食べてくれ。母さんを落胆させたくない」 「いいよ。――航」  唐突に名を呼ばれて目が丸くなる。座卓越しにある勝ち誇った表情がなんとも憎らしい。 「さっき、咄嗟に俺を名前で呼んでたぞ。ていうか、公園からずっと言いかけてたよな?」 「や、あの、いい、名前だなー、と思って……」  自称・嘘つきの弁解は尻すぼまりとなる。たちまちに紅潮した航に向かい、颯希は端整な顔をくしゃくしゃにして笑った。  破壊力満点の笑顔に石化していると、彼はバッグから小さな包みを取り出した。 「航にやる。今日の礼だ」 「え」 「ポチャにやるのは惜しいと思ってたから、ちょうどよかった。俺の気持ちだ。受け取れ」  半ば強引に押しつけられた包みは、ずいぶんと軽く小ぶりである。丁寧に開封すると、中から出てきたのはリストバンドだった。青味がかった緑色の地に白で刺繍されたエンブレムには見覚えがある。 「ありがとう。……サポーターなの? 鞄にキーホルダーも付けてるよね」 「うん! 父さんの地元だから、俺はずっと応援してるんだ」  身を乗り出した颯希に、内心でホッと息をつく。キーホルダーまでチェックしていることに反応されなくてよかった。 「僕、一度だけ試合を観に行ったことがあるよ。キーパーの鬼島(きしま)がスーパーセーブを連発して感動した。さすが、代表選手だよね」
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