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「なんだ、その面白い話とは」
五条の小野の邸宅までの間しか二人きりで話すことができない。
「今夜、五条の大橋に行かないか?小野の邸宅から遠くないだろう?」
良房も鬼退治だろうか。鬼は我が獲物ぞ。
篁は警戒した。
「何をしに行くんだ」
「うちの従者が聞きつけたんだよ。五条の大橋に美しい女の鬼が出るんだと。笛を吹いて男を誘うが、人にはあらぬ七尺の大女だという話だ」
篁はどこかで聞いた話だと思った。
「五条の大橋で女の鬼が、笛を吹いて男を誘う?」
「そうだ。実に美しい女の鬼だが、大きすぎて、どこかから奪ってきた袴の裾から、足がのぞくらしい。しかもそれが毛むくじゃらときた。見てみたいじゃないか。それで篁を思い出したんだよ。篁の腕っ節なら、いくら鬼といっても女は女。我一人では勝てそうにないが、篁もいれば何があっても勝てる。それに、七尺の女でも、六尺を超える篁なら恐ろしくもないだろうし」
篁は頭を抱えた。
良房は、「高身長の篁にこの七尺の女の鬼が似合う」と言ったと篁に誤解されたのかと思い、慌てて言った。
普段あまり喋る方ではないが、良房は喋り出すと口がよく回る。
「いや、篁にその女の鬼を抱けという話ではない。女に鳥辺野に帰るように、おそらく鳥辺野にこそ、お前に似合った長身の男がいるのだ、京の長身の男はいくら高くても篁くらいの大きさなのだと諭そうという話なのだ」
良房がとってつけたような言い訳をし始めた。
「あくまでも、これは、京の人々が、怯えぬように、という、だな、我の、」
篁は少し墨で汚れた白くて長い指の間から良房を見た。
「うちに上がれ。泊まりたければ泊まればいい」
「行ってくれるんだな?そうだな?」
良房は狭い牛車の中で飛び上がらんばかりに喜んだ。
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