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繋がれて
★ランバート
ボリスとハリーを伴ってジンの酒場に行くと、中は相変わらず傭兵仲間で賑わっていた。
「おう、ランバート! どうした?」
カウンターからこっちを見る、相変わらずのスキンヘッドを見ると少し安心する。ここは居心地のいい場所でもあるのだ。
「制服ってことは、なんかあったか?」
「まぁ、ちょっとな」
苦笑したままカウンターに近づいたランバート達を、ジンは快く迎えてくれる。相変わらず味は二の次状態のエールを飲み、ランバートはジンに視線を向けた。
「ジン、最近ここらで代行屋ってのが横行しているだろ?」
「あぁ、あるな」
「中には犯罪まがいの事を請け負う奴等もいると聞く」
「そっちの情報か」
ジンは難しい顔で腕を組んだ。
「頼む、俺の親友が巻き込まれたかもしれない。確認は俺達で取るから、どんな小さな事でもいい、教えてくれ」
「いや、力にはなりたいんだがな。なんせ数が多すぎるんだ。体一つで出来る仕事だし、健全なのが大半だ。ヤバいこともやる奴等がいるってのも聞いてはいるが……」
「アタイ知ってるよぉ」
不意に後ろでした明るい声に向き直る。するとそこにはオレンジ色に近い明るい髪色の女性がニヤニヤと笑っている。
「カーラ、久しぶり」
「よぉ、ランバート。お困りかい?」
「そう、困ってるんだ。何か知らない?」
ジンに酒をもう一つ頼み、自分の分と新しい物を持ってカーラの隣りに移る。新しいものをカーラの前に置くと、彼女は嬉しそうに笑った。
「やぁん、ランバートわかってる! 何でも聞いて」
「助かる。犯罪まがいの事にも手を出してる代行屋を知ってるんだな?」
「いくつかね。アタイが知ってるので、三組くらいあるわね。一つは手癖の悪い奴等。盗みを得意としてるけど、肝っ玉は小さい」
「そこじゃない」
「じゃあ、夜逃げが得意な奴等は?」
「それでもないかな?」
小物だけれど、実害ありそうだ。そっちも後で聞き出して、現行犯で捕まえて説教だろうか。
「一番ヤバイのは、E地区にいる奴だね。あいつらは何でもやるけど、絶対に軽犯罪止まり。依頼主の本来の目的には関与しない。ただ依頼された内容をこなすだけ」
「それ、もう少し聞きたいな」
カーラににっこり笑いながら、空いたグラスの代わりをジンに頼む。ふふっと笑う彼女はもう少し詳しい話をしてくれた。
「元は西から逃げて来たテロリストの残党らしいんだけどね、やり方が小狡いのよ。誰かを拉致れって依頼は断るけれど、訳ありの荷物を運んで欲しいって言われたらやる。契約書もちゃんと書くらしいのよ。そこには荷物の運搬としか書かない」
「それで逃れられるとでも?」
「荷物の運搬をしただけ。あくまでそう言い切るわよ」
そいつらがゼロスを連れ去ったのか? 元テロリストなら、そこらのゴロつきよりは腕が立つ。複数で、かつ武装した奴等が襲ってきたなら苦戦するかもしれない。しかもゼロスは丸腰だ。更に不意を突かれたら……
「場所、分かる?」
「分かる。紙ちょうだい」
彼女は紙にその代行屋のアジトがある場所を書いてくれる。一段落ついたのを察したボリスとハリーがランバートの後ろから、場所を書いた紙を覗き込んだ。
「どうする? 今から行く?」
「罪状ないのに突撃は無理っしょ。拉致に関与したっていう証拠なり目撃情報なりがないとさ。俺達が勝手に踏み込むにも限界があるよ」
「そうなんだよな……」
公的な機関だからこそ、横暴はできない。それがまかり通ると国家の基盤が変わってしまう。この国は恐怖政治になど傾かない。
だが、どうする。手遅れになるとゼロスに危険が及ぶ可能性がある。女性は男が考えるよりもずっと恐ろしい事を考えている時がある。
「とりあえず、何人かここに張り込ませて監視する。明日の朝には聞き込みも開始できるから、そっちから崩していこう。情報が集まり、繋がれば踏み込める」
「了解。それじゃ、俺とハリーで張り込みする。その間にランバートはクラウル様に報告な」
「だね。クラウル様、冷静ぶってたけど大分参ってる感じがするし」
あの人の焦った顔なんて、ヴィンセントの一件以来だ。いや、あの時よりも慌てているかもしれない。それだけ、ゼロスはあの人にとって大切な相手だ。
「必ず、連れ戻すぞ」
「勿論! あいつは俺達の大事な友達だ」
「だね。五体満足に返してもらわないと困るんだよ」
三人は頷き、立ち上がる。協力してくれたカーラにもう一杯お礼を込めて奢ったランバートは、そのまま各々の場所へと散っていった。
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