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今日もまた、君の声で目覚めてしまった。
目覚まし時計が朝を告げる前にスイッチを切る。もう何日、目覚まし時計のアラーム音を聞いていないのだろう。毎日君の声で起きるのは幸せなはずなのに、アラーム音で飛び起きる日々が少しだけ恋しかった。
深夜三時、君が言う。
「秀くん、起きて!」
茜が秀和の腕を揺さぶる。秀和は重い瞼を擦りながら、どうにか体を起こした。夜中にしか感じられない重たい寒さに震える。
「秀くん聞いて! 昨日ね、お姉ちゃんに会えたの」
茜が目を輝かせて言う。秀和の手を握ったまま、暗い空を見上げていた。僕はどんな反応をするのが正解なのか、と冷めたことを考えていた。
「もう一生会えないと思ってた。お姉ちゃん、私の事ちゃんと覚えてるのかな? 目の下のクマ、酷かったな。仕事で追い詰められてるのかな?」
秀和が黙っていても、茜は話を続けていた。懐かしむ口調で、楽しそうに。
「ねえ秀くん、聞いてる?」
「あぁ、聞いてるよ」
適当に答えて、今日も仕事を取られてしまった目覚まし時計を見つめる。あと二時間半。本当だったら、寝れているはずなのに。また仕事中に強烈な睡魔に襲われるのだと思うと、仕事へ行く前から憂鬱な気持ちになる。
また、仕事ができない、ゆとり世代だからだ、などと責められるのか。朝早くの満員電車に寝不足で乗り込んで、会社に着くころには吐き気に襲われるのか。
「ねえってば、やっぱ聞いてないでしょ」
「ごめん、なんて言った?」
「もう、秀くんってば酷いよ」
どうやらこの場合、深夜三時に話を聞くため起こされる僕の方が、仕事前の人間を一方的な話を聞かせるため起こす茜より酷いらしい。なんて理不尽なのだろう。
「そういえば、最近一人でも自炊してるんだね、秀くん偉い」
「茜みたいに美味しい料理は作れないけどね。食べるのは僕だけだし、適当だけど」
「それでも秀くんは偉いよ! またオムライス作ってあげたいなあ」
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