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「私、頑張ったんだよ。結局負けちゃったけど、病気と精一杯闘った。毎日毎日痛くて仕方なかったけど、でも、毎晩秀くんが帰ってくるから。痛みに勝ったの。秀くんが帰ってくると、痛みが消えるの。本当だよ? 疑ってるでしょ! ふふ、でも、本当に感謝してるんだよ? 秀くんがいてくれたから、少しでも長く生きていられたの。頑張ったから、神様がご褒美くれたのかな? ずっと、秀くんに会いたかったの。会えたよ、また会えたよ!」
最低なのは、僕なんだ。わかってる。
全部わかっているはずなのに、どこかですれ違ってしまう。
「本当はもっと生きていたかった」「本当はずっと君の話を聞いていたい」
「本当は、早く死んじゃいたいくらい、辛かった」「本当は、君がいないなら死んでしまおうと思っていた」
お互いの想いは自分の胸の奥底にしまったままで、二人の間の壁は厚くなっていくばかりだった。それでも、一緒に生きていけないことを認めたくなくて、どちらからも声に出せなかった。それが、結局関係を壊してしまう事も分かっていた上で。
「私、まだ三上茜で良かったね」
「速水茜になってたら、もっと辛かった。苦しかったと思う。耐えられないで、秀くんも、死んじゃってたかも」
「大丈夫、秀くんには次があるよ」
「秀くんは、私にとっての最後だったから、もうそれだけで十分幸せだよ」
いつだったか、そんな事を君が言った。
これから僕が、幸せなんていう、失ってしまった懐かしい感覚を、取り戻せるのだろうか。きっとまだ時間が掛かるけど、できることなら――。
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