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オレが晶子ちゃんと結婚すると知っためぐみは、毎日不機嫌極まりないそうだ。
おじさんへの挨拶は、案外、反対されることもなく、逆にありがたがられたが、めぐみが難関だった。
――めぐが、順ちゃんのおよめさんになるの!
何度か晶子ちゃんが説得しようと試みたそうだが、頑なに、その一点張りだったのだ。
貴晴兄ちゃんが部屋を出ようとすると、ちょうど、みどりさんが、お姫様ドレスを着ためぐみと手をつないでやってきた。
「――めぐみ」
オレは、ふてくされているめぐみの元に行き、目線を合わせるために、しゃがんだ。
「――めぐが、順ちゃんのおよめさんになるの……」
「……そっか。……けど、ごめんな。オレは、めぐみのコト大好きだけど、晶子ちゃんは、また別なんだ」
「……めぐも、順ちゃん大好き」
「晶子ちゃんは、嫌いになったか?」
オレの問いかけに、めぐみは慌てて首を振った。
「めぐ、晶子ちゃん、大好き!」
「――だよな。……晶子ちゃんも、めぐみのコト大好きだぞ?だから、めぐみには、おめでとう、って言ってほしいんだ」
すると、めぐみはうつむいて、小さくうなづいた。
オレは、そんなめぐみを抱きしめる。
「いつか、めぐみも大好きな人ができて、ずっと一緒にいたいって思ったら、結婚するかもしれないな。――その時は、オレと晶子ちゃんで、いっぱい、おめでとうって言うから」
「――わかった。めぐ、ちゃんと、おめでとう、って言うよ?」
「――……うん。……ありがとうな」
オレはめぐみを離して、頭をそっと撫でる。
セットを崩さないように、慎重に。
「――ありがとう、順之介くん。……それから、おめでとう」
みどりさんが、めぐみを抱っこし、そう言った。
「ありがとうございます。――これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
オレと笑い合い、みどりさんとめぐみは、貴晴兄ちゃんと一緒に部屋を出て行った。
何だか結婚式当日に幼児を振る、なんて申し訳なさすぎるが、ここはちゃんと言ってやらなければならない。
こじらせたら、めぐみの為にならないのだ。
三人を見送ると、すぐに、母さんはテンション高く、父さんはいつもとほぼ変わらない表情で入ってきた。
「順之介、アンタ、ホントに大丈夫なのね?!」
「ホント、信用無ぇなあ……」
「それとこれとは別!晶子ちゃんに恥欠かせないようにね!」
「当然だろ」
まだ言い足りない母さんを下がらせ、父さんは、一言、頑張れよ、とだけ言って、部屋を出た。
――そして、最後に部屋をノックしたのは、大槻先生だった。
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