4

1/4
183人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ

4

その日から、運動会の練習が始まり、オレは応援団と選抜リレーの練習で、いつもよりも一時間ほど学校から帰るのが遅くなる。 夕方も五時を過ぎ、オレは奏音と健人と一緒に、集団下校の班に並びながら歩き始めた。 方向によって三班に分かれて帰る。オレの班は、他に康平クンたち六年生が四人と、四年生が二人だ。 「じゃあ、康平クンは団長になるんだ」 「まあなー。何か、声が一番デカいヤツが無条件に選ばれるから、来年は順之介確定だな」 笑いながら言う康平クンを、オレはにらむ。 「やめてよ、マジで。シャレにならないから」 「だって、お前よりもデカい声いないだろ。教室の前通ると、いつもお前の声だけ響いてるしさ。健人は、デカいのは体だけだし」 「康平クン、失礼」 オレはチラリと後ろを歩く健人を見やると、康平クンに言う。 親友を悪く言われて、面白いヤツなんていないだろ。 「そうだな、悪い、健人」 康平クンは、あっさり、健人を振り返ると謝った。 東原小(ひがしょう)の生徒は、みんな素直で良い子なのだ。(一部例外もいるが) 「いや、全然。大体、順之介に比べたら、みんな声は小さくなる」 「健人!」 親友が笑いながら裏切った。(オレはマジで怒ったのに) 「冗談だろ」 健人はオレの頭を撫で回して謝るが、オレはふてくされたまま。 「まあ、振り付けは六年で考えてるから、今は発声練習だな。よろしく」 康平クンは気にする風でもなく、そう言って自宅マンション方向へ別れた。 反対側の道を入ると、奏音の家。そこから二分もしないところにオレの家。 健人はそこから少し遠くて、五分くらい歩く。 「順之介、俺、今日も道場行くわ」 「あれ、今日塾じゃないのか?」 「終わってから。今日は七時までだし、組手の方には間に合うだろ」 そう言って健人は、軽く手を上げると家まで走って帰って行った。 それを奏音と見送る。 一体、急にどうしたんだろう。 すると、珍しくずっと黙って歩いていた奏音が、口を開いた。 「健人さぁ、もしかしたら、中学別になるかもって、ママが言ってた」 「え?」 いつもよりも小さな声で、奏音がオレを見ながら言う。 「え?何だよ、それ。まだ五年じゃん!」 「だから、中学受験があるトコじゃないのか、って――」 奏音の声が遠い。 ――てコトは、健人とは、今までみたいに一緒にいられない、ってコトで――……。 オレは放心状態になりながらも、何とか自分の家にたどり着いた。 鍵を回してドアを開け、中に入る。 いつも通り、しんとした家の中。真っ暗で、人の気配など全くない。 父さんは工具メーカーの営業で、今は関東方面に出張中。大体、月の三分の一は家にいない。 だから、一人っ子のオレは、実質母さんと二人で暮らしている。 その母さんも、親友がやっているファッション関係の店で働いているので、帰ってくるのは早くても六時半や七時。 それを、淋しいと思ったコトなんて無かったのに――。 そう思えていたのは、いつでも一緒だった奏音と健人がいたから。 ――そして、晶子ちゃんがいるから。 オレは、初めて感じる孤独感のようなものに、少しだけ怯えた。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!