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その日から、運動会の練習が始まり、オレは応援団と選抜リレーの練習で、いつもよりも一時間ほど学校から帰るのが遅くなる。
夕方も五時を過ぎ、オレは奏音と健人と一緒に、集団下校の班に並びながら歩き始めた。
方向によって三班に分かれて帰る。オレの班は、他に康平クンたち六年生が四人と、四年生が二人だ。
「じゃあ、康平クンは団長になるんだ」
「まあなー。何か、声が一番デカいヤツが無条件に選ばれるから、来年は順之介確定だな」
笑いながら言う康平クンを、オレはにらむ。
「やめてよ、マジで。シャレにならないから」
「だって、お前よりもデカい声いないだろ。教室の前通ると、いつもお前の声だけ響いてるしさ。健人は、デカいのは体だけだし」
「康平クン、失礼」
オレはチラリと後ろを歩く健人を見やると、康平クンに言う。
親友を悪く言われて、面白いヤツなんていないだろ。
「そうだな、悪い、健人」
康平クンは、あっさり、健人を振り返ると謝った。
東原小の生徒は、みんな素直で良い子なのだ。(一部例外もいるが)
「いや、全然。大体、順之介に比べたら、みんな声は小さくなる」
「健人!」
親友が笑いながら裏切った。(オレはマジで怒ったのに)
「冗談だろ」
健人はオレの頭を撫で回して謝るが、オレはふてくされたまま。
「まあ、振り付けは六年で考えてるから、今は発声練習だな。よろしく」
康平クンは気にする風でもなく、そう言って自宅マンション方向へ別れた。
反対側の道を入ると、奏音の家。そこから二分もしないところにオレの家。
健人はそこから少し遠くて、五分くらい歩く。
「順之介、俺、今日も道場行くわ」
「あれ、今日塾じゃないのか?」
「終わってから。今日は七時までだし、組手の方には間に合うだろ」
そう言って健人は、軽く手を上げると家まで走って帰って行った。
それを奏音と見送る。
一体、急にどうしたんだろう。
すると、珍しくずっと黙って歩いていた奏音が、口を開いた。
「健人さぁ、もしかしたら、中学別になるかもって、ママが言ってた」
「え?」
いつもよりも小さな声で、奏音がオレを見ながら言う。
「え?何だよ、それ。まだ五年じゃん!」
「だから、中学受験があるトコじゃないのか、って――」
奏音の声が遠い。
――てコトは、健人とは、今までみたいに一緒にいられない、ってコトで――……。
オレは放心状態になりながらも、何とか自分の家にたどり着いた。
鍵を回してドアを開け、中に入る。
いつも通り、しんとした家の中。真っ暗で、人の気配など全くない。
父さんは工具メーカーの営業で、今は関東方面に出張中。大体、月の三分の一は家にいない。
だから、一人っ子のオレは、実質母さんと二人で暮らしている。
その母さんも、親友がやっているファッション関係の店で働いているので、帰ってくるのは早くても六時半や七時。
それを、淋しいと思ったコトなんて無かったのに――。
そう思えていたのは、いつでも一緒だった奏音と健人がいたから。
――そして、晶子ちゃんがいるから。
オレは、初めて感じる孤独感のようなものに、少しだけ怯えた。
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