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1.
「晶子ちゃん!好きだよ!オレと付き合って!」
「――却下」
およそ、告白の返事とは思えない言葉。
けれど、コレは、いつもの風景。
周囲からクスクスと笑いが聞こえても、オレはメゲない。
「――……あのなぁ……いい加減にしろ、順之介。毎日毎日学校帰りに校門で待ち伏せして、何を言うかと思えば、バカの一つ覚えか」
「だって、晶子ちゃんが付き合ってくれないんだもん」
オレの言葉に、晶子ちゃんは大きなため息をつき、ポニーテールにしても尚、肩にかかっている髪を、さらりと後ろへ流した。
それにしばし見とれたが、オレは気を取り直し、晶子ちゃんを見据える。
身長百七十センチオーバー(正確なところは教えてくれない)、ストレートの黒髪は背中まであるけれど、常にポニーテール。
スレンダーなモデル体型、というのだと、晶子ちゃんの友達の萌香ちゃんが教えてくれた。――いまいちピンとこないが、モデルというのだから、ほめ言葉なんだろう。
クールビューティーという言葉がピッタリな晶子ちゃんは、その鋭いまなざしでオレを見た――見下ろした。
「小学五年生が、高校三年生に向かって生意気言ってるんじゃない」
――オレは背負っていた黒のランドセルを左肩にかけ直す。今、オレの小学校で流行っている持ち方だ。
「だって、好きなんだもん。年なんてカンケーないだろ!」
「やっと二桁になった人間が、知ったような口をきくな。さっさとあきらめろ」
そう言って晶子ちゃんは背を向けるが、オレは素早くそれを阻止する。
オレの方が二十センチも身長が低いから、かがまなくても見上げれば、晶子ちゃんの表情が見える。
――うれしいが、くやしい。
「照れてんだろ、晶子ちゃん。――かわいい」
だが、伝えた瞬間、目から星が出るほど勢いよく頭を叩かれた。
「……っ……しょっ……小学生のクセにっ……!」
そんな言葉とは裏腹に、晶子ちゃんは耳まで真っ赤だ。
やっぱりかわいい、とひたっていると、いつの間にか晶子ちゃんはさっさと歩き始めた。
「あ、待ってよ、晶子ちゃん!」
オレは慌てて追いかけた。
蔵内順之介、十歳、小学五年生。
隣のウチに住んでいる、佐々木晶子ちゃん、十七歳、高校三年生に絶賛片想い中である。
「まあ、毎日毎日、懲りもせずによく来るね~、順くん」
オレがダッシュして数メートル。なぜか電柱の辺りで晶子ちゃんが止まっていたので、どうしたのかと思ったら、そう声をかけられた。
「萌香ちゃん」
クスクスと笑いながらオレに手を振ってくるのは、晶子ちゃんが唯一、いつも一緒にいる女子高生。
かけている細い銀のフレームの眼鏡をクイッと上げ、その奥の目は楽しそうだ。
「ホント、面白いわね~。晶子もちょっと考えたら?将来有望かもよ?」
笑うと、ゆるくウェーブのかかった茶色の髪が、ふわふわ揺れる。
晶子ちゃんがクールというなら、萌香ちゃんはカワイイ系というのだろう。(正直、晶子ちゃん以外はどうでもいいけど)
「萌香、冗談はやめておけ。順之介は全部本気に取りかねない」
あっさりと受け流す晶子ちゃんに、萌香ちゃんは笑った。
高校からの付き合いみたいだけれど、割と晶子ちゃんの氷の対応には慣れているらしい。
多くは言わなくても、言いたい事が分かっているみたいで、ちょっと悔しいけれど。
でも、そういうのを親友というのなら、晶子ちゃんは良い親友を持ったんだろう。
「ええ~、半分本気よ?」
「ちょ……!半分なんだ!?」
聞き捨てならない、と、オレの抗議に、萌香ちゃんはついに爆笑した。
「で、おウチも隣同士のはずのキミが、何で高校まで押しかけて来るのか、おねーさんに教えてくれる?」
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