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あまりよく見ていなかった彼の風貌を今更ながらまじまじと見てしまう。
柔らかそうな髪の毛。
電気の下で見ると茶色っぽく見えるのは地毛だろうな。
少し垂れ目がちなのが優しそうな雰囲気に輪をかけている。
モテそう。
でも何だか裏もありそうな気がする。
「俺は黒子(くろこ)と言います。そちらは?」
「あ、えと、小野旭です」
「旭さん。いい名前っすね」
名前を褒められて悪い気はしない。
いきなり呼ばれても気にならなかった。
最もあたしはその名に全く似つかわしくない、ネガティブな性格をしているところがもったいないところだと後から言われることも少なくない。
旭より夕とかの方がいいのかも。
下らないことを考えている間、黒子さんはあたしの名前を口の中で何度か転がしてその響きを楽しんでいるようだった。
何だか、この人は人生とても楽しそうだな。
あたしとは、真逆。
「それで、旭さん。なんでそんなに暗い顔をしてたのか……。俺でよければ聞きますよ」
「………」
「都合の悪いこととか、言いたくないことは言わなくてもいいんです。俺にできることは多分聞くことくらいだし、何を知ったってお互い何も知らないから怖いことはないっすよ」
問われて唇を噛んだあたしの表情を見て、彼はそっと付け足した。
迷った。
本当は誰かに話したかったのだと思う。
でも、あたしがここまで落ちぶれたのは、信頼していた人に大切なことを話してしまったがために起きたことなのだから。
もう自分のことを話すのが怖かった。
でも。
「いっかあ。話しちゃっても」
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