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そんな気になった。
餌付けされて肩の力が抜けてしまったみたい。
だって、もう全て失ったのだから
。
大切にしていたものも。
好きだった人も。
頑張ってきた仕事も。
もう、失った。
あたしには何もない。
これ以上何を失うものがあるのか。
「昨日辞めたんです、仕事」
「…………」
「新卒で入社して、六年間がむしゃらに努力して働いていたと、思います。仕事ができるようになりたくて、尊敬していた人みたいになりたくて、ずっと必死だった」
「それなのに、どうして?……何があったんですか」
「信じていた人に、裏切られました。上司から、お前は組織に所属する人間として相応しくないと言われました。好きだった人に、がっかりしたと言われました。……いろんなことが、限界だったんだと思います」
ここ一週間足らずの間に浴びせられた言葉を自分で発するというのは、案外辛いものだった。
その時のみんなの顔。
自分の鼓動が嫌なリズムを刻んだこと。
全てがリフレインされる。
苦しくなる。
「随分と心ないことを言う人達っすね。辛かったでしょ」
黒子さんは少し眉をひそめて優しい言葉をくれた。
あたしは膝の上に置いた拳を握りしめる。
「多分、そう思われるのはあたしが自分に都合のいい部分だけを伝えているからです。……本当は、自業自得なんです」
しっかりしていないと黒子さんの優しさに甘えたくなる。
でも、それじゃあだめだ。
今のあたしの状況は本当に自業自得。
そしてそれはあたしが自分にだけ甘かったからだ。
もう同じことはしちゃいけない。
しっかりしなきゃ。
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