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「……でも旭さんがそれを言われたことは本当なんでしょ?例え旭さんに非があっても、傷ついた事実はなくなりはしないです」
「や……だとしても、被害者みたいな顔するのは良くないです」
そう言うと彼は苦笑した。
「頑固者って言われません?」
「そうですね……はい」
「そうっすかそうっすか、人間関係で辞めちゃいましたか。でも普通、人間関係で退職してしまう人は職場を離れると楽になるらしいっすけど、旭さんは随分落ち込んでるんすね?」
「……」
彼はあたしの顔をしばらく見つめたあと首を傾げた。
「ん~。本当は辞めたくなかった。人間関係に未練がある。仕事は嫌いじゃなかった。とかそういうことすか」
「全部……当たりです」
今度はあたしが苦笑する番だった。
すごいなこの人。
仕事を辞める決断をしたのに、何かもやもやする理由。
彼がつらつらと挙げたことが全てだった。
あたしはまだまだ仕事を辞めるつもりはなかった。
時折それが頭を過ぎることはあっても実行に移すことはできていなくて。
ぶっ飛ばしたい人間もいるし、言い返したいこととか相手にぶつけなければどうしようもできない感情も、まだここに残っている。
仕事は好きだった。
努力の甲斐あってそこそこの仕事を任せてもらえるようになっていたし、単純にできることが増えるのは楽しかった。
とどのつまり、未練がある。
それでも辞めることを選択したのは、もうこれ以上ここにいられないと思ったからだった。
「前向かないとって思ってるんです。でも気持ちがついてこなくて……今住んでるの社宅だから早く次の部屋とか仕事とか探さなきゃいけないのに、頭がぼーっとしちゃって力が入らなくて」
不安だった。
いろいろなことが。
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