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本当なら一度ゆっくり休みたいけれど、あの部屋に長く暮らせない以上嫌でも今は行動を起こさなければいけない。
動かない体を必死に動かそうとしてもどんどん重くなっていく。
苦しかった。
普通に仕事をして生活をする。
そんな当たり前のようにしてきたことが、本当はとてもすごいことだということに今更気づいて恥ずかしくなった。
でもそれを口にするのが嫌で。
あたしはごまかすように笑った。
黒子さんは腕を組んで何かを考えているようだった。
窓から見える外はもう真っ暗だ。
「あの、話聞いていただいてありがとうございました。昨日から人と話したりとかしてなかったから……少し、楽になりました」
「あ、いえ……」
そろそろ帰ろうとお礼を言って話を切り上げる。
あたしが頭を下げても黒子さんは歯切れの悪い反応をする。
ソファから立ち上がろうとすると彼がはっとしたように顔を上げた。
「あの」
「え?」
「辞めたその会社では、何をしてたんですか?」
唐突な質問だった。
けれど別に聞かれて困ることでもない。
「経理課に所属していました」
「なるほど。ちなみに経理といっても幅広い業務があるけど、どんなことを?」
「え?ええと……それこそ入出金から請求とか、資金繰りとか……あとはまあ税務申告とかです」
その後も目の色を変えて食いついてくる黒子さんに少し怯えつつ、あたしは今までの仕事内容を説明した。
一度ソファから立ったものの、何だか長くなりそうで再び座ることになってしまった。
「旭さん。一つ提案があるんす」
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