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さっきまでイツキさんの目があった位置にすっと繰り出されたのは。
「あっ!!」
叫んだ瞬間、さっと引っ込められたそれに引っ張られるようにあたしは音を立てて立ち上がった。
「ちょ、何で隠すんですか」
「どうしたの、そんなに慌てて」
「いいからちゃんと見せてくださいって!」
急いで終わらせなければいけない仕事を横に置いてもみ合うイツキさんとあたし。
何、その焦らし。
一回ちらっと見せたんなら最後までちゃんと見せてよ!
「えいっ!」
「ああ、そんなご無体な……」
所長に対して通常なら使うはずのない馬鹿力でむしり取る。
あとに残されたのは、よよ、と崩れるイツキさん。
何馬鹿なことしてるんだよ。
冷たいことを思ったのもつかの間。
「やっぱり三水苑のクーポンだ!」
めったに出ることのない上ずった声が自分の喉を震わした。
『三水苑』
それはあたしが愛してやまない焼肉店の名。
ここらでは有名なお店なのだ。
週末は予約なしでは入れない。
一押しは何と言っても、牛タン。
「牛タン食べたい!」
「山ほど食べていいよ」
「ほんとですか!!」
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