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いつだったか、牛タン愛をイツキさんと黒子さんに語っていたのだけれど、そのことを彼は覚えてくれていたようだった。
焼肉と言ったら、牛タン。
もうそれ以外のお肉は入る余地がない。
それ以外の赤みのお肉ではあたしの舌は満たされないのだから!
「ただし、条件がある」
「な、何でしょう」
クーポン券をなめるように見つめていると、そのあまりにも真剣なトーンに思わずごくりと唾を飲んでしまった。
どんな無理難題を……。
「その仕事を五時半までに終わらせることができたら、だよ」
「へっ」
「どうだい?」
まるで肩透かしをくらわせるためのような、条件。
間抜けな声を出した後、あたしは。
「ぜっったい!終わらせます!」
「うん」
ここ数日のもやもやが吹き飛んだ気がした。
イツキさんはそんなあたしを見てにっこりと笑ったようだった。
「それじゃ、俺もキリのいいところまで終わらせるから。お互い集中ね」
「はい!」
あたしの活きのいい返事を皮切りに、事務所内には静寂と、パソコンのキーボードを打つ音だけが響いた。
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