5.違法者 後編

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いつだったか、牛タン愛をイツキさんと黒子さんに語っていたのだけれど、そのことを彼は覚えてくれていたようだった。 焼肉と言ったら、牛タン。 もうそれ以外のお肉は入る余地がない。 それ以外の赤みのお肉ではあたしの舌は満たされないのだから! 「ただし、条件がある」 「な、何でしょう」 クーポン券をなめるように見つめていると、そのあまりにも真剣なトーンに思わずごくりと唾を飲んでしまった。 どんな無理難題を……。 「その仕事を五時半までに終わらせることができたら、だよ」 「へっ」 「どうだい?」 まるで肩透かしをくらわせるためのような、条件。 間抜けな声を出した後、あたしは。 「ぜっったい!終わらせます!」 「うん」 ここ数日のもやもやが吹き飛んだ気がした。 イツキさんはそんなあたしを見てにっこりと笑ったようだった。 「それじゃ、俺もキリのいいところまで終わらせるから。お互い集中ね」 「はい!」 あたしの活きのいい返事を皮切りに、事務所内には静寂と、パソコンのキーボードを打つ音だけが響いた。
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