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「……はい」
音を途切れさせたのは、イツキさんの方だった。
かすかなバイブ音のあとの静かな声。
見なくても分かる。
電話だ。
それも、多分仕事の。
「……ええ、はい……ああ、なるほど。ちょっと明日は予定が詰まってまして……もしよろしければ、今から伺ってもいいですか?……では少ししたら伺います」
電話を切る気配があって、あたしは顔を上げた。
「お客さんですか?」
「うん、資料を取りに行かなくちゃいけなくなった」
「今からですよね」
「そう。あ、大丈夫だよ。焼肉はちゃんと行くから。資料回収だけだしね」
いや、もしその予定がダメになっちゃったとしても仕事だからしょうがないですけどねと内心だけで返事をする。
「旭もう終わるかい?」
「……何だかんだあと十五分はかかりそうです。五時半までには終わらないかも……」
「そっか……」
あれほど自信満々に終わらせるといったあたしだったけれど、微妙に間に合わなさそうだった。
悔しさがついつい滲む。
「そうしたら、六時半に現地集合にしようか」
「……いいんですか?」
「……うん」
「なんか、全然いいって思ってなさそうな雰囲気なんですけど」
不自然な間を置かれて突っ込まないあたしじゃない。
「本当は一人にしたくないんだよ」
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