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イツキさんは眉を寄せながら更に続けた。
「でも、旭のここ数日の様子を見て思うんだよ。かなり息が詰まっているなって。少しくらい息抜きさせてあげないと……」
「イツキさん……」
「辞められても困るし」
彼なりに悩んだ末の判断だということが伝わって、少しジンとしてしまった。
最後の一言が余計だったけど。
初めて会った頃の悪印象はどこに行ったんだろうというくらいいい上司だ。
前職の上司たちなんて、比べものにならない。
こんなに下のこと考えてくれて、しかもそれを直接伝えてくれる人そうそういないよ。
「あ、ありがとうございます」
「でも、一つ約束」
「はい」
「お店まで、タクシー使ってね。経費で精算していいから」
「え、でも……」
貧乏性が顔を覗かせた。
だってここから三水苑までは一キロないくらい。
タクシー拾ってわざわざ経費にするなんてもったいないくらいの距離だ。
でもそこがイツキさんの最大限の譲歩だっていうことも分かってる。
「分かりました」
「うん。じゃあ行ってくるから、出てくるとき戸締りと警備かけてくるのだけ忘れないでね」
「はあい」
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