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「は、はい……」
「ここで働きません?」
「えっ」
目を見張ったあたしに黒子さんはこう提案をしてきた。
この事務所は最初にあたしが思った通り、新規に開業する事務所らしい。
そして何とその事業内容は会計事務所。
現在職員は黒子さんと所長だけで、事務員を絶賛募集中だというのだ。
人手不足だから未経験は残念ながら歓迎しておらず、ある程度の経験と知識がある即戦力が必要としていた。
つまり。
「あたしはうってつけってことですか」
「ええ、ええ!旭さんみたいな人がうちには必要っす!」
キラキラした目で頷かれても。
すると彼はあたしがぐらりときてしまうような条件を持ち出してきた。
「それにここ、一階は事務所っすけど二階部分は住居スペースになってるから社宅としても提供できますよ」
「え、ほんとですか!?」
「ええ。俺と所長も住んでるけど部屋はきっちり別れてるし、新しい部屋が決まるまで使ってもらっても、そのまま住んでも構わないっす!」
それはとんでもなく魅力的なお誘いだった。
次の仕事でも経理や会計事務所辺りに就職したいと思っていたし、住む場所にも困らない。
一緒に働く人達との距離感があまりにも近すぎるのはネックだけど、よっぽど苦痛に感じるのなら別で住むところを借りればいい。
その後も給与や休日などその他もろもろの内容を確認して、悪い話ではないと思ってしまった。
「どうっすか」
「……正直、かなり揺れてます」
黒子さんは嬉しそうに頷いた。
「まあ、とはいえ俺だけの判断で勝手なことはできないんで最終的には所長に話をしないといけないんすけど……」
「それはそうですよね」
「もしよければ、今呼んできますよ」
思わず顔が引き攣った。
え。待ってよ。
展開が急過ぎない?
まだ心の準備も何もできてないよ。
心の声が顔面に出ていたけど黒子さんは気にしない。
大丈夫っす!とガッツポーズをして部屋から出ていってしまった。
「うっそ……」
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