194人が本棚に入れています
本棚に追加
「例えば、精神的に追い詰めて自殺に追いやってもそれは【直接】殺したことにはならないんだよ。だって、結局のところ死ぬのを選んだのはその人間自身なんだから」
「は……サイテー」
「先輩と昔はそれで荒稼ぎしてたなあ」
あの頃は楽しかった。
そう懐かしそうに言ったシマ。
その言葉に、あたしの心臓が数センチ浮き上がった気がした。
目を見開くあたしを見て、シマは嬉しそうに目を輝かせた。
「知らなかった?」
ぽつりと、雨が落ちてきて。
それは瞬く間に大きな雫となって、あたしとシマを濡らした。
どういう意味、なんだろう。
「イツキ、さんが……」
それしか言葉が出なかった。
でもそれすら、あまりに小さくて。
雨の音に解けていく。
「雨かよ、最悪」
ローブで頭を完全に覆い隠したシマが不機嫌そうな声を出す。
彼は、この雨で完全にやる気をなくしたようだった。
雨が嫌いなのは、イツキさんと同じなんだなと。
どうでもいいことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!