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ちゅんちゅんと鳥の声がやかましくて目が覚めた。
「おはよ……っうぇっしょい!」
一人起床の挨拶をしたけど、途中でくしゃみが飛び出した。
垂れそうになる鼻水を急いで啜る。
あー、さむ。
さすがに公園で寝るのはきつかったか。
昨夜さ迷い続けたあげく、行く場所がなくてどこかの公園のトンネルの中で一夜を明かすことになったのだけど。
もう春が近いとはいえ、さすがに寒かった。風がよけられるからここを選んだのに、意外とトンネルの中は冷たかった。
外は明るい。
太陽を浴びたいとトンネルから這い出した。
「あー!腰痛い!」
外に出て思いきり体を伸ばす。
堅い地面では疲れは完全に取りきれないけど、思ったよりスッキリはしていた。
ベンチに腰かけて太陽を浴びていると冷えた体もだんだんと暖まってきた。
服についた砂ぼこりを払う。
会社を着のみ着のまま飛び出してきて泣くわコケるわ、昨日は散々な一日だった。
自慢のロングヘアもボロボロ。
顔面の塗装はドロドロ。
ああ。しんどい。
「これから……どうしよう」
口にするとじわじわと表現しがたい不安感に襲われた。
昨日、色々なことがあって丸六年間勤めた会社に退職届を提出した。
有給休暇は二ヶ月分近く残っているから、無理して来なくてもいいよと告げた上司の顔が脳裏に焼き付いている。
彼が無理しなくていいよというときは、決まってやらないでほしいという意思表示なのだ。
察してくれるよね、という遠回しな拒絶。
来ないでほしいならそう言ってくれた方がずっといいのに。
要約すると、もう来ないでくれと会社から言われてしまったということ。
しかも部署全員が同じ借上社宅のマンションの住人で嫌でも顔を合わせなければならないであろうおまけつき。
元々私物の少ないデスクを片付け、冷ややかな視線を背に感じながら社会人生活に区切りをつけることになるなんて。
想像もしていなかった。
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