1.あらまし

3/44
前へ
/147ページ
次へ
マンションに一度は戻ったけれど、会社の人たちの声が聞こえるのが怖くて、苦しくて気がつけば外に飛び出してきてしまった。 行く宛もないのに。 ランドセルを背負った小学生たちが、朝からやかましく公園を通っていく。 男の子たちが追いかけっこをするついでに滑り台をかけ登り、そのまま滑り降りていった。 元気だな。 微笑ましく思ってその姿を目で追っていたら、あたしに気がついた男の子がぎょっとしたような表情になった。 そのまま他の子どもたちにやべーよ、目合っちゃったなんて言っているのが聞こえて、心の中だけで苦笑した。 今のあたしは、どこに行っても後ろ指さされるみたいだと。 しばらくベンチでぼんやりし続けていると、いつの間にか小学生たちの姿も見えなくなっていた。 腕時計を見れば、もう十時。 世間は本格的に始動している時間帯だ。 今なら、もうみんな仕事に行っているだろう。 あたしはアパートに一度戻ることにした。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

194人が本棚に入れています
本棚に追加