1.あらまし

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あたしは……不倫をしていた。 社内の既婚者の先輩と。 いつの間にかそんな関係になっていたなんて無責任なことは言わない。 一夜限りの関係でもない。 あたし達は共犯だった。 入社したときから好意を持っていた先輩。 恋愛経験の多くなかったあたしにとって仕事のできる彼は大人で、憧れの存在だった。 ちゃんと分かっていた。 彼には奥さんも子どももいて、あたしの思いが届くことはない。 伝えるつもりも、なかった。 憧れの域を出るはずのない想いだった。 普通に仕事をして、冗談を言い合って。 辛いときも一緒に乗り越えていける。 それだけでよかった。それ以上を望むなんてこと、なかった。 でも、ある日。 先輩から飲みに誘われた。 忙しかった仕事が一区切りついたから打ち上げだと言って。 そして、そのまま。 浮かれていた。 年上の男性は、それまで付き合っていた同年代の男の子とは全然違くて。 楽しくて。 当時は罪悪感しかなかった。 先輩は何でもない顔をしていたけれど。 何てことをしてしまったんだと毎日自分を責めていた。 でもいつしかそれも薄くなっていって。 あたし達は間違いを犯し続けた。 でも、本当はずっと、苦しくて。 誰にも言えるはずがない。 知られてしまえば、あたしは社会で生きていくことができなくなる。 絶対に許されることはない。 そんな悩みを抱えているのが苦しくて。 唯一信頼していた同期についに打ち明けてしまった。 それがあたしの一番の失敗だった。 彼は、あたしから聞いた話をそのまま先輩に話したのだ。
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