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人気がないことを確認して、エントランスを通る。
まあ人がそんなにいないことなんて分かりきってるんだけどね。
ドアの前で鍵を探しているとき、ドアの隙間に封筒が差し込まれているのを見つけた。
なんだ、これ。
無理矢理ねじ込んだのであろうそれを引っ張り出したあたしは、心臓が胃の中に落ちたのかと思うほど重力の影響を受けた気がした。
見覚えのある封筒。
会社のロゴマークが印刷されているものだった。
「………」
手が震えた。
怖さ半分、期待半分だったように思う。
封をされていない封筒からA4の文書を引き抜いた。
目を通したあたしから漏れたのは、少しばかりの笑みと。
拭いきれない大粒の涙だった。
中身は何のことはない。
退職する以上、昨日話し合った退職日まではこの一室に住んでもよいができうる限り早く退去する旨が仰々しい言葉で書かれているだけだった。
やっぱり戻ってきてほしい。君が必要だ。
そんな言葉が書いてあることを、どこかで期待していた。
ほんの、少しだけ。
分かってるよ。
そんなの都合がいいって。
予想はしていた。
してた、けど。
「六年間、ずっと……頑張ってきたのに……っ」
一瞬で切り捨てられたことが、どうしようもなく悲しかった。
『少なくとも俺は信用してたけど。……越えちゃいけないとこ、越えちゃったね。ほんと、残念』
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