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そう。
今日あたしは、イツキ会計事務所の社宅兼事務所に引っ越してくることになった。
本当は引越し業者に依頼したかったのだけど、時期が時期だけにほとんど空きがなかったのだ。
手配可能な時期は今の社宅を引き払わなければいけない日より一週間以上後だけ。
それじゃあ間に合わない。
困っていたときに黒子さんが手伝ってくれることになったのだ。
ちなみにさっき階段で騒いでいたのは、二人がかりでベッドを運んでいたときのもの。
流石に階段を登るのは大変で危うく黒子さんを巻き込んで大事件を起こしてしまうところだった。
「二人とも、本当にすみません」
「何言ってるんすか、旭さんはもうここの一員なんだから手伝うのは当然っす!」
黒子さんはにかっと笑って自分の胸を叩いてみせた。
その屈託のない言葉にあたしがどれだけ救われていることか。
「所長、手伝わないなら邪魔なんでどっか行っててもらっていいすか?」
「黒子、お前って俺の扱い雑だよね、ほんと」
「そんなの今に始まったことじゃないっす」
「確かに。ところで旭」
「は、はい」
黒子さんとイツキさんの掛け合いは正直いつものこと。
仲がいいなあと見ていたのに突然名前を呼ばれたから、返事すら噛んでしまった。
イツキさんは上機嫌にあたしに話しかける。
「おはよう」
「おはようございます」
「ああ、旭が本当にいる。嬉しいな。今日という日を待ちわびたよ、俺は」
「は……?」
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