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「乾杯!」
お決まりの文句。
小気味のいい、ガラス同士がぶつかる音とともに三人でグラスを傾ける。
イツキさんと黒子さんはビールを。
あたしは甘口の赤ワインを。
引っ越しが無事終わったことを祝ってあたしたち三人は共有のリビングで祝杯を上げていた。
「なんとか終わったっすね」
「一時はどうなることかと思ったけどね」
イツキさんが肩を叩きながら苦笑する。
朝早くから始めて終わったのは夕方五時過ぎ。
家具を運び出すだけならまだしも、二人ともあたしが元々住んでいた部屋の掃除まで手伝ってくれたものだからこんなに時間がかかってしまった。
「二人ともありがとうございました。あたしだけだったら絶対終わってなかったです」
「いいんだよ。その分ここで働いて返してもらうからね。ね、黒子?」
「そうっすね!旭さんはうちの期待の星っすから!会計部門は旭さんがいないと成り立たないですね〜」
「いや期待の星って……ていうか成り立たないってどういうことですか?」
程よく酔いもまわり、仕事の話になったが引っかかってあたしは少し我に返る。
会計部門?成り立たない?
不穏な気配を感じた。
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