2.転居

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至極当然に湧いて出た疑問。 それを聞いたイツキさんと黒子さんが動きをピタリと止めた。 「所長、もしかして何も説明してないんすか?」 「え?ちゃんと俺言ったよ?死神だって名乗ったし」 二人の顔に冷や汗のようなものが浮かんでいるのが見える。 言ったよね? そうイツキさんに首を傾げられてあたしも思い返す。 ……もしかして、あれのこと? 「あの、屋上で言ってたことですか?」 「そうだよ、なんだやっぱりちゃんと覚えてるじゃない」 「………」 死神。 おぼろげだけれど、あの日イツキさんがそう言ったことは覚えている。 『連れていってくれる?』 『……それで君がいいのなら』 無意識のうちに首を擦る。 鎖が首を締め上げていったあの感覚。 今の今まで忘れていたのに、冷たい鎖の感触がまだ残っているようだった。 「……夢かと思ってました」 「現実だよ。あの日起きたこと全て。紛れもない現実なんだよ」 イツキさんはビールの缶をテーブルに置く。 そしていつもの笑顔を浮かべ、首を傾げた。 「怖いかい?それとも、信じられない?」 あたしもつられるようにグラスをテーブルに置いた。 イツキさんは笑顔だけど、その中にあるのは人を試すような鋭い視線。 一体何を試されているのか分からない。 おまけにお酒のせいで頭も回らないと来た。 なら、正直に言うしかない。 「怖くはないです……なんか、そういうの通りすぎちゃって」 「へえ、そうなんだ」 「多分、信じてもいないですけど」 「雇用主に向かって信じてないなんて中々はっきり言う子だね」
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