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イツキさんはどこまでも笑みを崩さない。
あたしの考えていることなんてお見通しだと言わんばかりに。
「俺は死神だよ。でもそれは命を刈り取るための存在だ。命の期限を決めているのは俺よりずっと上の存在で、俺はそれに仕える農夫なのさ」
「………」
「つまり、俺には命を延長する権限なんてないってことだよ」
死神ならもう少し生きられるようにできたんじゃないですか。
そう言いたかったあたしを彼は封じた。
できない、の?
何となく腑に落ちなくて唇を噛んだ。
ポンポンと肩を叩かれる。
「まあそう気落ちしないで」
「人が死ぬところを見て、楽しくはなれないです」
「それはそうだね。でも死神に魂を回収されるということは幸せなことだよ」
俺が言うのも何だけど。
彼はそうつけ足した。
一方のあたしは意味が分からない。
「最近の少子高齢化社会には参ったものだよ。死人が多くて手が足りなくてね。全てを刈り取れてはいないんだ」
「回収できなかった人はどうなるんですか」
「君らで言うところの悪霊とか怨霊とかになりやすくなるんだ。人は現世に未練を残すものだからね。それがある限り、次の生には移れない。そしてずっとこちらで留まり続ける魂は徐々に劣化していく」
「………」
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