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歩きながら必要なものを指折り数える。
古いビルの窓ガラスに映る自分の顔に問いかけた。
「わっ……ぷ」
中にいた男性と目が合って変な声が出た。
誰もいないと思ったんだよ。
やば。
慌てて目を反らした。
別に悪いことはしていないけれど、気まずさを感じて足早に立ち去ろうとしたのに。
「どうぞ」
ビルのドアを開けた男性があたしの行く道を塞いだ。
「へ?あ……いや、何でもないんで……」
かけられた声にぽかんとした。
どうぞ?
いやいやどういうこと。
ちょっと目があっただけなのにいきなり招かれても。
困ります。
ほんと、間が悪かっただけなので。
足元を見たまま、彼の前を通り過ぎようとする。
「わっ……」
けれど。
すっと立ち塞がり、顔を覗き込まれて声が漏れた。
初対面の人間にそんなことをしてくるなんて普通に考えて変態だ。
危ない奴に捕まったかもしれない。
そんな恐怖が半分。
けれどそんな考えは立ち塞がった彼の顔を見て一瞬で薄れた気がする。
人懐っこそうな笑顔。
本当に、ニコニコというのがピッタリだと思った。
これ以上ないくらい目を細めて笑顔を向けられると、何だか顔を反らしたくなってくる。
言葉が出なくなってしまった。
彼は首を傾げている。
「どうかしましたか?」
「あ……!いえ、すみません。ほんと何でもないんで」
ごにょごにょと言い訳をするようにさっきと同じことを繰り返す。
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