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その笑顔が何だか眩しい。
こんなあたしでも、まだ誰かを笑顔にできるのだろうか。
そんな悲劇のヒロインみたいなことを考えてしまって。
小さな声で頂きますと呟いて、紅茶を一口飲む。
フレーバーティーではない、茶葉の味。
ダージリンか。
自宅で入れた紅茶より、数段おいしく感じるのは何故だろう。
シフォンケーキをフォークで一口分、口に運ぶ。
上品な甘さ。香りが鼻から抜けていく。
おいしかった。
そういえば、昨日の昼から何も食べていない。
ふとそのことを思い出した。
今の今まで忘れていた。
「おいしい、です」
あたしは食べることが人一倍好きな人間だった。
でも最近、何を食べても本当においしいと思えることがなくて。
それくらい心が病んでしまって。
だからかな。
見知らぬ人からのちょっとした優しさが心に沁みて、痛いくらいだった。
「……っ、っ」
いつの間にか視界が歪んで。
甘かったはずの口の中は、塩っぽくなっていた。
そんなあたしの姿を見て、彼は驚いたようだったけど何も言わなかった。
あたしは泣き続けた。
シフォンケーキが全てなくなるまで。
「すみません……」
少しして落ち着きを取り戻したあたしが感じたのは気恥ずかしさ。
この歳になって号泣してケーキを食べるなんて。
「いえいえ。こちらこそ食べきれないものを食べてもらってありがたいっす」
すごい。
紳士だ。
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