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翌日。
寒風の吹く翠谷へ柊平と夜魅が降りていったのは、もう日も暮れようかという頃だった。
冷たい青から濃い藍へ、古い沢は静かに沈んでいく。
祖母の被衣に包んだ撫で斬りを持った柊平の足元を、夜魅が半歩遅れて付いてくる。
夜魅はずいぶんと無口だった。
いつもなら、寒いのなんだのと騒いで仕方ない寒さなのに。
沢のせせらぎと小石を踏む音が、短く響いては消える。
程なくして、白いものが目の前を舞い始めた。
沢の中には、微かな雪明りを反射してキラキラと光る鉱物の粒。
そして水晶堂に着く頃には、やはり辺りは真っ白な雪に鎖された。
「あぁ。来たな」
鶴維は入口に座り、煙管をふかしている。
プカプカと浮かぶ紫煙は、3つ目には雪に変わった。
「まぁ、あがれ。いくら煌鬼とて、猫の身では少々辛かろう」
見ると、足元の夜魅は尻尾が2本出ている。
外を歩く時は、普通の猫のフリをしているのだが、どうやら化けの皮が剥がれてしまっているようだ。
夜魅はタンっと雪を蹴って、鶴維の前に着地した。
「こうき?」
「若様も入りな。刀も見よう」
鶴維は、また聞きなれない名前を口にした。
夜魅が反応したということは、知らないのは自分だけなのだろう。
柊平は、ギュッと撫で斬りを握りしめて、二匹の妖怪に続いて水晶堂に入った。
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