旧い鶴

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「さて。意識はどちらにある?」 柊平から撫で斬りを受け取った鶴維が、囲炉裏の炎に刀身をかざす。 そして、オレンジ色の炎を反射する灰色の瞳が、横目で夜魅を見下ろした。 「(おも)には僕に。でも、記憶は曖昧で、力の殆どは刀に。まぁ、(あるじ)にしか使えない刀だけど」 夜魅は特に考えもせず、すぐにそう答えた。 柊平は、自分以外の者が抜いた撫で斬りを初めて見る。 囲炉裏の向かい、鶴維の持つそれは、いつものより鈍く光った。 「なるほど」 鶴維は頷くと、撫で斬りを鞘におさめた。 「若様、手負いの龍神を助けた男の話をしたのを覚えているか?」 「俺と同じようなことになったと」 昨日、白い組紐を結んでくれた時に、鶴維が懐かしそうにしていた話だ。 「では、その龍神が、この刀とその猫又だということは、聞いているか?」 柊平は、思わず近くに座る夜魅を見た。 金色の瞳に、囲炉裏の炎がゆらゆらと反射して、なにか得体のしれない物のようだ。 「猫又じゃない…?」 「猫又だよ。猫又になった経緯は、他の猫又と違うらしいんだけどね」 いつもの調子で、飄々(ひょうひょう)と夜魅は言う。 「刀の"中身"とは話したか?」 鶴維から返された撫で斬りを、被衣に包んだまま握りしめた。 今回の体調不良の一旦を担っていると言ってもいい、あの夜の出来事が思い出される。 「話までは。ずいぶん一方的だった」 柊平は、椿の一件を最初から全て鶴維に話した。
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