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鶴維は、柊平が話す間、ただじっと耳を傾けていた。
会ったばかりの妖怪に、なぜこんなことを話しているのだろう。
白い肌と絹のように艶のある長い髪。
凪いだ灰色の瞳と、薄い唇。
柊平より一回り大柄で、白い着流しが似合う美しい男の姿をした妖怪。
こういう異質さに、人間は迷うのだろうか。
話を聞き終わった鶴維が、また煙管をふかす。
その紫煙は、不自然な動きで格子窓を抜けて、また雪になる。
「紅い組紐を、編んで貰えませんか」
柊平のその言葉に、鶴維はふぅーっと煙を吐き出す。
「いや、必要ないだろう。もう下げ緒は結んであるじゃないか」
柊平が握り締める刀を、鶴維は煙管の先で指す。
「しかし、姿を違えればバランスを失って、元のようには使えないんです」
「"元"というのは、"先代のように"だな。しかし、それではまたお前の力で負荷がかかる。人の真似事では、所詮そこまでだ」
組紐の妖怪を見つければ解決する。
そう思っていたが、どうやらそう簡単な話ではないらしい。
「ふむ…。昔話をしよう」
途方にくれたような顔の柊平に鶴維はそう言うと、囲炉裏の縁でカンッと高い音をたてて、煙管の灰を落とした。
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