旧い鶴

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「柊平。柊平?柊平!」 頭の横で何度も呼ぶ声に、柊平はうっすら目をあけた。 少しほっとしたような夜魅の顔が、ごく近くからこちらを見ている。 「随分うなされてたけど、平気?」 そう訊かれ、汗で濡れた額を手で押さえる。 目だけで探した目覚まし時計の時間は、普段の起床時刻をとうに過ぎていた。 「休んだらいいのに」 店の上がり口でスニーカーを履く柊平に、夜魅は不満そうに言う。 「いや…日常生活に支障がでたら、たぶんここにこられなくなる」 それは、両親もだが、おそらく壮太朗(そうたろう)からも止められるだろう。 しかし、今の不安定な状態では、むしろそれでは何も良くはならないように柊平は感じていた。 夜魅は膨れっ面のまま、渋々「いってらっしゃい」と小さな声で言った。 昨夜は大白鳥を見送ったあと、どうにか撫で斬りと桐箱を北棟に戻した。 百鬼夜行路を開いたあと、暑くもないのに頬を伝う汗。 ここ数週間、肉体的なものとは少し違う疲労感に柊平の体は(さいな)まれている。 眠れば戻ると思っていたが、その回復状態は思わしくなかった。 むしろ、百鬼夜行路を開く度、撫で斬りを使う度、さらに不調が増しているような気さえする始末だ。 「帰りに行ってみるか」 学校へ向かうバスの中、常緑の針葉樹が黒く茂る山を見上げ、柊平はぼんやり考えていた。
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