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山から吹き降ろす風は冷たく、通学用のダッフルコートでは役不足は否めない。
なのに、また、柊平の額に汗が滲む。
ふぅっと白い息を吐くと、沢の上流に向かって踏み出した。
寒いは寒いが、雪や氷の類いは一切無い。
むしろ穏やかで、水の音と足元の小石を踏む音が耳に心地よかった。
しかし、お堂へ近づくにつれ、ちらちらと白いものが舞い始めた。
それは進むにつれて激しくなり、柊平がお堂の前につくころには、真っ白な雪が辺りを染めた。
遠い西陽は谷には届かず、厚く積もった雪に青い影が落ちる。
山の天気の急変。
歩いている間はそう思っていた。
しかし、先ほどと違い、沢の中がキラキラと光っている。
柊平はわずかに迷ったが、流れの中へ手を入れた。
「紫水晶…?」
刺すように冷たい水。
その中で無数に光っているのは、どうやら鉱物のようだ。
「昔は…水晶などの鉱物の粒や砂金がとれた場所…。」
祖父の言葉を口の中で呟き、ハッと後ろを振り返った。
さっき下りてきた土手に雪はない。
雪景色は、お堂の周り数メートルのみ。
沢がキラキラ光っているのも、その僅かな範囲だけだ。
「結界…?」
自分が立っている場所は、『作られた景色』だ。
肌に感じる雪の冷たさも、水に触れて冷えた手も、その手の中の小さな鉱物さえ確かにある。
しかし、この曖昧な気配は…。
そこまで考えて、柊平の視界は霧に包まれたように霞み、ほどなくして白に呑まれた。
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