旧い鶴

6/13
前へ
/14ページ
次へ
「おい、桃晴(とうせい)。こんなところで寝ていると、いくらお(ぬし)でも死ぬぞ」 まっさらな雪の上に倒れた柊平を、白い手がつつく。 「とう…せい?」 うっすらと開けた目には、白い着物の(たもと)と、雪の上に流れる絹糸のような美しい髪が見える。 「なんだ、ずいぶん弱っているな」 そこにいるのが妖怪であることは、もう柊平にははっきり分かる。 だが、どうしても顔を上げることができない。 冷たい雪の上に沈む体。 見知らぬ妖怪。 死ぬかもしれない。 店番を任されてから初めて、柊平はそんなことを考えた。 『全て奪われたら消える』 それが命であることを、ここ数日の体の重さから実感していた。 だから、動けない今、残りを取られたら、死ぬしかないのだ。 「まったく、世話の焼けるやつだ。煌鬼(こうき)も居らぬし、いったいどうなっている」 頭の上で何か言っているが、柊平にははっきりと聞き取れない。 ただ、雪の上の冷たさが、吹く風の冷たさに変わったことを、再び薄れゆく意識の中で感じていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加