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どれくらい経っただろう。
カランッカランッと、つみき同士がぶつかるような音に、柊平は意識を呼び戻された。
暖かい。
パチパチと爆ぜる囲炉裏の炎を、ぼんやりと眺める。
「目が覚めたか」
囲炉裏を挟んだ向かい側に、光沢のある白い着流し姿の男が座って何かを編んでいる。
柊平は囲炉裏端で寝かされたていた。
目を開けることはできるが、起き上がろうにも体が重い。
囲炉裏の炎に浮かび上がるのは、黒い木製の室内。
格子窓の向こうには雪が舞い、沢のせせらぎが聞こえる。
「ここは…」
「水晶堂」
白い男は、視線を手元に落としたまま答える。
そういえば、翠谷の古い御堂が、そんな名前だったか。
「あなたは…」
「私は鶴維だ。なんだ、友の名も忘れたのか。薄情者め」
そう言って顔を上げた鶴維と、柊平はここへ来て初めて目が合った。
薄い灰色の瞳が、不満そうに顰められている。
「友…」
この古い妖怪と、自分に似た誰か。
おそらく、百鬼の…。
「お前…桃晴ではないのか?」
呆然としている柊平の様子に、ハッとしたように鶴維が訊く。
「俺は、百鬼柊平といいます」
男の目に、一瞬寂しさのような色が過ぎった。
が、それはすぐに消え、凪いだ灰色の瞳が柊平を見つめる。
「そうか。よく似ているが違うのか」
ボソリとそう言うと、鶴維はまた手元に目を落とした。
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