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わずかなやりとりの後、鶴維は一言も話さなかった。
柊平は横になったまま、鶴維とその後ろの格子窓の向こうに舞う雪をぼんやり眺めている。
織物が得意な鶴の妖怪。
どこかで聞いた様な話だ。
そんなことを脈絡もなく考えた。
そうしているうちに、また眠ってしまっていたのだろう。
誰かが手を触る気配に、まったく気づかなかったのだから。
目を開けると、鶴維が柊平の手首に白い組紐を結んでいた。
「起きてみろ」
そう言われて、柊平は恐る恐る体を起こす。
あんなに重かった体が、ずいぶんと軽い。
「これは?」
「簡単なまじないだ。お前の生命力は垂れ流しの状態だったからな。それを繋ぎ止めるように結んである」
柊平は、手首の白い組紐をまじまじと見つめた。
「大方、情けをかけた妖怪にでも力をとられたのだろう?」
図星すぎて、柊平はグッと言葉に詰まる。
鶴維はクッと可笑しそうに笑って、元の場所に座った。
「お前によく似た男を知っている。そいつは手負いの龍神を助けて、死にかけたことがあった。その時もこうして、体の外へ道が出来てしまった流れを繋いだことがある」
懐かしそうに、鶴維は囲炉裏の炎を見ている。
柊平の手首に巻かれた組紐は、つやつやと炎を反射して白く光った。
その様子は、撫で斬りのあの飾り組紐のそれと、とてもよく似ていた。
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